描かれたグラフには意思が内在する
グラフとは「数量や数値の関係性を視覚的に表現したもの」です。
この説明だけを信じるならば、そこに人の意思が入り込む余地はありません。しかし、実際には必ずと言っていいほど作り手の意思が存在します。
例えば下表のように、使われているグラフの種類だけでも伝えたい情報が分かる場合があります。
何を伝えるべくして描かれたかというのはグラフを読むために重要な要素の一つです。
グラフ | 主目的 |
---|---|
棒グラフ | 絶対量の比較 |
折れ線グラフ | 推移 |
円グラフ | 構成比の可視化 |
帯グラフ | 構成比の可視化 |
散布図 | 相関関係の可視化 |
箱ひげ図 | 五数要約 |
これまでのグラフ入門ではどのようにグラフを選択し、どのように描くことでより情報を得やすくするかという観点で公開してきました。
逆説的にいえば、上手く工夫を凝らせば(?)誤解を生むようにグラフ化することも可能なのです。
可視化したデータをより見やすいものへと変えるための知識は、時として人を騙すためのテクニックにも変貌するのです。
単調増加に見せかける
売上個数や営業利益は増えれば増えるほど望ましいものです。
下のグラフを業績として出されたらどうでしょう?「これまでの調子で頑張っていこう」なんて思いませんか?
そう思ってしまったあなたは既にグラフを作った人間の手中です。
実際のデータを見てみましょう。
2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
---|---|---|---|
823 | 846 | 840 | 830 |
2019以降は減少傾向ですね。かといってこのグラフは嘘の数値を入れて作ったわけではありません。
3Dグラフを回転や透視投影によってうまく変形すれば、このような実際は減少しているのに増加しているかのように見えるグラフも簡単に作ることができます。
(そもそも数値自体をデタラメにして印象を操作するグラフも案外世の中に蔓延っていますが…)
誤解を生まないようグラフ化するとこのようになります。
推移を見たいのだから折れ線グラフにしよう!というのもなしではありませんが、業績は数量そのものに価値があるので数量が面積と認識できる棒グラフの方がよく用いられます。もちろん、増減の推移を見せるために数量の前期比率(あるいは前期増減)を折れ線グラフにするなど、目的に応じて様々な書き換えは可能です。
「数量や数値の関係性を視覚的に表現したもの」であるはずのグラフで数の関係性を誤認させることができるというのは恐ろしいことです。
描く側も、見る側も正しい知識を持ってグラフに臨まねばなりません。
ライター:H.I